「遊ぶように仕事をして、本気で挑戦を楽しむ」――シェア60%から100億企業へ、社員の未来と安心を支える組織づくり

2026/9/1 更新

「遊ぶように仕事をして、本気で挑戦を楽しむ」――シェア60%から100億企業へ、社員の未来と安心を支える組織づくり

野﨑 恭伸さん

代表取締役社長

1969年大阪府生まれ。大阪大学卒業後、讀賣テレビを経て、1996年にフジ矢株式会社に入社。1998年、29歳という若さで代表取締役社長に就任する。バブル崩壊後の苦境を乗り越え、経営の原点に据えているのは「社員を守るための成長」。国内トップシェアを誇る同社を牽引し、現在は「100億円企業」の実現に向けた成長戦略を推進。

高い品質とブランド力で工具業界をリードするフジ矢株式会社(以下、フジ矢)。代表取締役社長に、シェア60%のその先を描くグローバル戦略や、挑戦を本気で楽しむ組織づくりについて伺いました。


工芸品のように仕上げ、工業製品として届ける

フジ矢の強みである、職人技による品質と量産力、そしてブランド力

フジ矢製品の強みを一言で表すなら、品質です。社長として、普段から「工芸品のような工具を、工業製品として届ける」という言葉を多用しているのですが、切れ味と耐久性、それが私たちが長年こだわり続けてきた価値であり、多くのお客様から選ばれてきた理由だと思っています。

ペンチやニッパは一見シンプルな工具に見えますが、その本質は包丁や理美容用のハサミと同じ“刃物”です。材料選びから加工、熱処理、最終仕上げまで、見た目以上に多くの技術が詰まっており、安易に他社が真似しようとしてもできないものです。

その切れ味を支えているのが職人の技術であり、当社では各工程を職人が担い、一本一本丁寧に仕上げています。

昨今、日本メーカーであれば高品質な製品づくりはある程度できるようになっていますし、海外メーカーであれば大量生産が得意と言えます。しかし、そんな状況下だからこそ“その先”が問われる、というのがフジ矢の考えです。

職人の手仕上げによる高い品質を維持しつつ、ベトナムを生産拠点にして安定供給にも応える。品質と量産を両立させるこのバランスこそが、フジ矢の強みであり、競争力の源泉だと思っています。

そして近年、もう一つの強みとして育ってきたのが、KUROKINシリーズを代表格とするブランド力です。従来の工具業界では性能や機能が重視されてきた一方で、「かっこいいから使いたい」という価値は決して高くありませんでした。それに対し、私たちはデザインそのものを差別化要素にしたのです。

最近では、作業服と同じように、仕事で使う道具にもデザイン性が求められる時代になってきました。それが追い風となって、見た目の不ぞろいさを解消し意匠性を追求したKUROKINシリーズは、若い世代だけでなく40代・50代の職人ユーザーからも支持されるようになりました。

品質で選ばれ、ブランドでファン化する。今では品質だけでなく、デザインやブランドもフジ矢の大きな強みになっています。

今後はSNSの活用や売場づくりにもさらに力を入れながら、フジ矢ブランドの価値を高めていきたいと考えています。


「100億宣言」達成に向けたグローバル戦略

シェア60%のその先へ――国内深耕・海外展開・新規事業で描く成長ロードマップ

現在、ペンチ・ニッパ分野では約60%のシェアを獲得しています。しかし、シェアが高いからこそ、同じ市場だけで成長を続けることは簡単ではありません。だからこそ次の成長である100億円企業の実現に向けて、フジ矢ではある成長戦略を進めています。

「職人丸ごと戦略」、「海外市場の開拓」、「FA事業の拡大」、「M&Aによる事業領域の拡充」という4つの挑戦です。


1. 「職人丸ごと」を実現する商品ラインナップの拡充

今あるシェアを高く維持しつつ、継続して大きく成長し続けるために、私たちが掲げているのが「職人丸ごと」という考え方です。

これまでは職人ユーザーから主にペンチやニッパが選ばれていましたが、最近ではモンキーレンチやドライバー、腰袋など、現場で使われる道具全体へと製品領域を広げています。

目指すは、職人が使う工具一式をフジ矢・KUROKINシリーズで揃えていただくこと。ペンチ・ニッパのメーカーとしてではなく「職人の仕事を支える総合工具メーカー」を目指しています。

2. 海外市場の開拓

海外展開においては、フジ矢の原点であるペンチ・ニッパを主軸に構えています。海外市場で何より評価されるのはやはり品質であり、特にペンチ・ニッパの切れ味は、海外メーカーと比べても大きな優位性があると言えます。

例えば、当社のニッパは太い線だけでなく細い線もきれいに切ることができます。細かな銅線や精密な作業でも切り残しが少なく、プラモデル向け製品などでも高い評価をいただいています。

日本の刃物技術は海外でも十分に通用するので、まずは日本品質の工具として認知を広げながら、海外市場での存在感を高めていきたいと考えています。

また、海外市場における競争において、品質に次いで大きな武器になっているのがKUROKINシリーズのブランド力です。機能性だけでなくデザイン性にも優れた製品として、海外でも「かっこいい工具」と評価をいただいており、韓国や台湾などで早くも支持を広げています。日本の職人がどんな工具を使っているのかに関心を持つ現地ユーザーも多く、ここ最近はSNSを通じた問い合わせも増えてきました。

品質で信頼を獲得し、ブランドでファンを増やす。アジア市場での実績を足がかりに、今後はアメリカやオーストラリアなど市場ごとの特性に合わせた戦略を展開しながら、海外事業の拡大を加速させていきます。

3. 研磨技術を活かしたFA事業

新たな成長の柱として期待しているのが、金属研磨工程の自動化を支援するFA事業です。この事業の出発点は、フジ矢が長年取り組んできたものづくりにあります。ペンチ・ニッパ製造の現場で培った研磨技術と自動化ノウハウ、その蓄積を外部企業向けに展開することで、新たな事業領域の開拓に取り組んでいます。

研磨工程の自動化は、専門性が高くニッチなため、まだ競合他社の少ない市場だと言えます。だからこそ、フジ矢ならではの技術や知見を活かせる余地が大きいと見込んでいます。現在は大手鉄鋼・重機メーカーなどを中心に提案を進めており、将来の成長に向けた種まきを続けている段階です。

4. M&Aによる事業領域の拡大

最後に、M&Aも重要な成長戦略の一つです。目指しているのは、「ペンチ・ニッパメーカー」から「総合工具メーカー」への進化です。工具関連メーカーや独自技術を持つ企業との連携・買収を通じて、商品ラインナップを広げながら自社の販路やブランドを活かせる領域へ挑戦していきたいと考えています。

もちろん、M&Aは相手企業あっての取り組みです。だからこそ、自社とのシナジーを生み出せる企業との出会いを大切にしながら、一歩ずつ可能性を広げていきたいと思っています。

既存事業を磨きながら、新たな市場にも挑戦する。これら4つの成長エンジンを育てながら、フジ矢は100億円企業への挑戦を続けています。

今後の経営目標

成長は、社員を守るためにある

フジ矢は100億円宣言を掲げているものの、私にとって100億円という数字そのものが目的ではありません。経営を通じて強く感じているのは、企業は成長し続けなければならないということです。

私が社長に就任したのは29歳のときでした。経営者として最も苦しかったのは、バブル崩壊後の時期です。当時は売上が13億円から6億5,000万円まで大きく落ち込み、人員削減という苦しい決断もしなければなりませんでした。経営者として、最も苦しかった経験であり、企業は常に成長して売上を伸ばしていく必要性を痛感しました。今でも、「もう二度とリストラをしない会社にしたい」という強い思いがあります。

苦境はいつか必ずやってきますが、そのときに社員を守るために、平時から売上を伸ばし、企業としての体力をつけておかなければなりません。成長のために社員がいるのではなく、社員を守るために成長する。それが私の経営の原点です。

現在、売上は30億円を超える規模まで成長してきました。その次の目標として掲げているのが100億円です。100億円という数字は、社員にとっても分かりやすい目標です。会社としてどこを目指しているのか、何のために挑戦するのか。その方向性を共有するための旗印でもあります。

社員が安心して働き続けられる環境をつくり、待遇向上や新たな投資につなげていく。そのために、これからも成長への挑戦を続けていきます。

採用・人材育成

地位が、次世代の経営人材を育てる

人材に関して最も大切にしているのは、「フジ矢が好きであること」です。そして、仕事を楽しみながら挑戦できる人と一緒に働きたいと思っています。

会社の成長を支えるのは、やはり人であり、工具開発や海外展開、FA事業など、これからさらに事業を成長させていくうえで人材は欠かせません。だからこそ当社が力を入れているのが、経営人材の育成です。

私は父の急逝によって20代で社長を引き継ぐことになりましたが、今振り返ると、若いうちに経営を経験できたことは大きな財産だったと思っています。私の大切にしている考え方である「地位が人をつくる」というものも、この経験を通じて培ってきました。

人は責任ある立場に立つことで成長します。経営者という立場だからこそ見える景色があり、身につく視点もある。だから将来的には、子会社の社長や事業責任者を任せられるような人材を育てていきたいと考えています。

その取り組みの一つが「社長塾」です。今年始めた取り組みですが、ありがたいことに多くの社員が手を挙げてくれました。前向きに学びたい、成長したいという思いを持つ人が、社内で増えてきていることを改めて実感しています。最近は若い世代に上昇志向がないと言われることもありますが、決してそんなことはないと感じています。挑戦したい人には、その機会を用意する。それも会社の役割だと思っています。

実際、当社には自ら学ぶ文化が根付いています。20年以上にわたり人材育成への投資を続けてきたこともあり、社内教育だけでなく外部研修も積極的に活用しています。私自身、外で学んだ経験が経営に大きく役立ったと感じているからです。

近年はウェルビーイング向上の取り組みの一環として、書籍購入や資格取得など、自己成長への支援も行っています。読書や研修に自発的に取り組む社員も多く、学びを前向きに楽しむ風土が育ってきました。

フジ矢が好きで、挑戦を楽しみ、自ら学び続ける。そんな人材が増えることが、次の事業を生み出し、次世代の経営者を育てることにつながる。そうした組織づくりを、これからも続けていきたいと思っています。

転職者へのメッセージ

「遊ぶように仕事をして、仕事をするように遊ぶ」——挑戦を楽しめる仲間と、これからのフジ矢をつくりたい

私がよく社員に伝えている言葉があります。
「遊ぶように仕事をして、仕事をするように遊ぶ」
仕事も遊びも本気で楽しんでほしい、そんな思いを込めた言葉です。

私自身、スキーが好きで毎年40日ほど滑っています。仕事はもちろん一生懸命やりますが、遊びも同じくらい大切にしています。どちらか一方ではなく、どちらも全力で楽しむこと。それが人生を豊かにすると思うのです。

仕事に対する考え方も同じです。ただ言われたことをこなすのではなく、自ら考え、工夫しながら取り組む。新しいことへの挑戦や試行錯誤も含めて、仕事そのものを楽しんでほしいと思っています。

フジ矢は中小企業だからこそ、一人ひとりの挑戦が会社の成長につながりやすい環境があります。新商品の開発、ブランドづくり、海外展開。自分が取り組んだことが形になり、その成果を実感できる点に、フジ矢で経験できる仕事の面白さがあると思っています。

また、年齢や性別、国籍に関係なく、意欲があればさまざまなことに挑戦できる環境があります。もちろん、挑戦には失敗もつきものです。でも、失敗したら改善して次に活かせばいい。そうやって試行錯誤を繰り返しながら前に進んでいくことを、当社では大切にしています。

仕事を楽しみたい人。挑戦を楽しみたい人。
そして将来的には、経営にも挑戦してみたい人。

そんな前向きな仲間と一緒に、これからのフジ矢をつくっていきたいと思っています。


※本記事に掲載されている情報は、2026年5月取材当時のものです。

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